苦労してやっと就職できた会社。
ところが、賃金や休日数などの労働条件が思っていたものと違い、「こんなはずじゃなかった・・・」と後悔したことはないでしょうか。
労働条件の相違が原因で会社とトラブルになったり、退職に至らないためにも、入社時にもらえる「労働条件通知書」の確認は必須といえます。
この記事では、労働条件通知書の定義から5つのチェックポイント、労働条件通知書をもらえないときの対応方法まで解説します。
労働条件通知書とは?
労働条件通知書とは、賃金や就業時間などの労働条件を記載した書類のことです。
労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条で、会社が従業員を採用した時や契約を更新した時に、交付することが定められています。
労働条件通知書は誰でも必ずもらえる
交付対象者は、その会社に雇い入れられた全員です。
つまり、正社員、契約社員、派遣、パート、アルバイトなど雇用形態に関わらず、誰でも必ずもらえる書類ということになります。
ちなみに、労働条件通知書の作成・交付には、労働者、会社双方に、次のようなメリットがあります。
・労働者 入社時や契約更新時に、あらためて自分の労働条件を確認できる。
・会社 従業員との間で「言った、言わない」といったトラブルを避けることができる。
雇用契約書との違い
会社によっては、労働条件通知書ではなく「雇用契約書」を発行するケースもあります。
雇用契約書とは、会社と労働者が雇用契約を結んだ際に取り交わす契約書です。
一方的な労働条件の「通知」のため、1通だけの労働条件通知書とは違い、雇用契約書は労働条件について双方の「合意」を証するため2通作成します。
また、会社と労働者、それぞれの署名捺印や記名押印するのも労働条件通知書との違いです。
ちなみに、民法上、雇用契約は口頭でも成立するため、会社は雇用契約書を作成・交付する義務はありません(民法第623条)。一方、労働条件通知書は、書面での通知義務があるため、必ず交付する必要があります。
ただ、通知書の交付だけでは、労働者が労働条件に合意しているかわからず、後々トラブルに発展する可能性もあります。このため、「労働条件通知書兼雇用契約書」というかたちで交付するのです。雇用契約書をもらったときは、労働条件通知書の内容が記載されているか、確認したほうがよいでしょう。
労働条件通知書をもらうタイミング・もらい方
内定通知時、入社日当日、研修初日など、労働条件通知書をもらうタイミングは、会社ごとに異なります。できれば入社前にもらいたいところですが、入社後でも違法とはいえません。労働条件通知書の具体的な交付時期は、法定されていないからです。
そうは言っても、できたら入社前に労働条件を確認しておきたい。その場合は、会社に事前送付の希望を伝えてみるのもひとつです。
また、もらい方についても、書面だけでなく、労働者が希望すれば、FAXやメールでも可能とされています。
ただ、FAXやメールで怖いのは、届いているのに見落としている場合です。
もらっていないと会社に催促する前に、FAXの受信履歴やメールの迷惑メールボックスに混じっていないかなど、今一度、見落としがないか確認してから、連絡するようにしましょう。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-Ch_2-At_15
出典:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023#Mp-At_5-Pr_1-It_4_2
出典:厚生労働省「労働条件通知書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156118.pdf
出典:e-Gov法令検索「民法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_2-Se_8
労働条件通知書の5つのチェックポイント
とくに入社当初は、新しい環境に慣れるのに忙しく、労働条件通知書をじっくり見返す余裕がないものです。
ところが、
・希望条件に合うと思って入社したが、実際は応募した仕事ではなかった・・・
・思っていたより休日が少なかった・・・
としたら?
すでに業務も始まり一定期間が過ぎた後では、会社に申し出るのは勇気がいるものです。かといって、我慢して働き続けてもストレスは溜まるいっぽう。何も良いことはありません。
もらったタイミングでの労働条件通知書の確認は、やはり必要です。
そのうえで、自分の把握している労働条件と違う点があれば、すぐに人事担当の方などに伝えましょう。
最初から条件面について話すのは、気が引ける部分もあります。が、せっかく頑張って決めた仕事です。モヤモヤした気持ちのまま働き続け、最終的に早期退職とならないためにも、疑問点は早めに相談するのがおすすめです。
それでは、労働条件通知書で確認すべき5つのチェックポイントについて見ていきましょう。
契約期間
まずは、雇用契約の期間です。
労働条件通知書には、正社員など雇用契約に期間の定めがない場合は「期間の定めなし」、契約社員・アルバイトなど雇用契約に期間がある場合(有期労働契約)では、「期間の定めあり」とし、具体的な契約期間を明記しています。
ところで、契約期間がある場合、契約の更新はあるのか、どんな場合に更新するのか、気になりますよね。
そのため、有期労働契約では、労働条件通知書に、契約更新の有無、更新する場合の判断基準、2024年4月からは更新の上限(通算契約期間または更新回数の上限)がある場合は、その内容も記載することになりました。
また、2012年の労働契約法改正により、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたとき、有期雇用労働者が申し込めば、期間の定めのない雇用契約(無期労働契約)へ転換できる「無期転換ルール」が定められました。
これに伴い、2024年4月からは、労働条件通知書にも、無期転換申込の権利を得る契約更新のタイミングで、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件を明示することになっています。
【記載例】
・雇用契約に期間の定めがない場合
契約期間 | 期間の定めなし |
・雇用契約に期間の定めがある場合
契約期間 | 期間の定めあり(2024年10月1日~2025年3月31日) 1 契約の更新の有無 [自動的に更新する・更新する場合があり得る・契約の更新はしない・その他( )] 2 契約の更新は次により判断する。 ・契約期間満了時の業務量 ・勤務成績、態度 ・能力 ・会社の経営状況 ・従事している業務の進捗状況 3 更新上限の有無(無・有(更新 回まで/通算契約期間 年まで)) | |
【労働契約法に定める同一の企業との間での通算契約期間が5年を超える有期労働契約の締結の場合】 本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日(2025年4月1日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。 この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり) ) |
就業の場所・業務の内容
労働条件通知書には、どこで(就業の場所)、どんな仕事をするのか(従事すべき業務の内容)も明記されています。とくに、支社や営業所などが複数ある会社の場合は、求人票や面接時に明示された就業の場所かどうか、確認しましょう。
定期的にテレワークをすることが予定されているなら、就業の場所として「労働者の自宅」や「サテライトオフィス」といった表記が追加されています。こちらも要チェックです。
なお、2024年4月からは、就業の場所と業務内容の変更の範囲も記載が必要になり、入社や契約更新の段階で、今後の転勤や業務変更の可能性もわかるようになりました。
【記載例】
就業の場所 | (雇入れ直後) 本社及び労働者の自宅 | (変更の範囲) 本社及び全ての支社、労働者の自宅での勤務 |
従事すべき業務の内容 | (雇入れ直後) 営業事務 | (変更の範囲) 会社の定める業務 |
始業終業時刻・休憩時間・残業の有無・休日休暇
始業終業時刻や休憩時間、残業や休日休暇の情報は、ワークライフバランスにも関係するため、重要なチェック項目です。
【記載例】
始業、終業の時刻、休憩時間、 所定時間外労働の有無に関する事項 | 1 始業・終業の時刻等 始業(9時00分) 終業(18時00分) | |
【変形労働時間制などを採用している場合】 変形労働時間制等;(1か月)単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は1か月を平均して週40時間以内とする。 始業(9時00分) 終業(18時00分) ※適用日 毎月1日 フレックスタイム制;始業及び終業の時刻は労働者の決定に委ねる。 フレキシブルタイム (始業)6時00分~10時00分 (終業)15時00分~19時00分 コアタイム 10時00分~15時00分 ・詳細は、就業規則第◯条~第△条、第▢条~第◇条 2 休憩時間 60分 3 所定時間外労働の有無( 有 , 無 ) | ||
休 日 | 【定例日の場合】毎週土・日曜日、国民の祝日 【非定例日の場合】月当たり8日、その他(シフト表による) ・詳細は、就業規則第◯条~第△条 | |
休 暇 | 1年次有給休暇 6か月継続勤務した場合→10日 継続勤務6か月以内の年次有給休暇 (有・無) 2代替休暇(有・無) 3その他の休暇 有給(健康診断日、夏季休暇) 無給(投票に行った日) ・詳細は、就業規則第▢条~第◇条 |
なお、記載例のように、「詳細は、就業規則第◯条~第△条・・・」と書いてあることもあります。
「就業規則」とは、賃金や労働時間などの労働条件や社員が守るべきルールを定めた規則集のことです。会社は、就業規則を、見やすい場所に備え付ける、データ化して閲覧できるようにするなど、従業員がいつでも確認できる状態にしておく義務があります。就業規則を参照するよう記載があった場合は、労働条件通知書に加えて、就業規則も確認するようにしましょう。
賃金
働くうえで、賃金はやはり大事なポイントです。ところが、十分確認したと思っていても、交通費に上限があったり、手当に支給要件があるなど、細かい事項を見過ごしていることもあるかもしれません。仕事へのモチベーションにも関わってくるため、基本給、時給、手当など賃金の項目も、しっかり確認しましょう。
【記載例】
賃金 | 1 基本賃金 イ 月給(180,000円)、ロ 日給( 円) ハ 時間給( 円)、 ニ 出来高給(基本単価 円、保障給 円) ホ その他( 円) ヘ 就業規則に規定されている賃金等級等 2 諸手当の額又は計算方法 イ(通勤手当月額20,000円まで/計算方法:距離に応じて支給) ロ(職務手当月額8,000円/計算方法:職務遂行能力に応じて支給。詳細は就業規則◯条) ハ( 手当 円/計算方法 ) ニ( 手当 円/計算方法 ) 3 所定時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率 イ 所定時間外、法定超 月60時間以内(25)% 月60時間超 (50)% ロ 休日 法定休日(35)% ハ 深夜(25)% 4 賃金締切日 毎月末日 5 賃金支払日 毎月25日 6 賃金の支払方法(銀行振込) |
7 労使協定に基づく賃金支払時の控除(無 ,有( )) 8 昇給( 有(時期、金額等 就業規則第△条に従い昇給する) , 無 ) 9 賞与( 有(時期、金額等 業績等を勘案して年2回、7月・12月) , 無 ) 10 退職金( 有(時期、金額等 就業規則第▢条に従い退職金を支給する),無 ) |
退職に関する事項
入社や契約更新のタイミングで、退職のことは考えたくないものです。が、万が一のときに慌てなくてもよいように、退職する際のルールはチェックしておきましょう。自己都合退職の手続きなど、知っていて損はありません。
【記載例】
退職に関する事項 | 1 定年制 ( 有 (60歳) , 無 ) 2 継続雇用制度( 有(65歳まで) , 無 ) 3 創業支援等措置( 有( 歳まで業務委託・社会貢献事業) , 無 ) 4 自己都合退職の手続(退職する30日以上前に届け出ること) 5 解雇の事由及び手続(就業規則に従い、解雇する) ・詳細は、就業規則第◯条~第△条、第▢条~第◇条 |
その他、チェックしたほうがよいポイント
これまで見てきた5つのチェックポイントは、昇給に関する事項を除き、必ず書面・ファックス・メールなどでの明示義務が課されています。
その他の項目、たとえば、賞与や退職金の有無などは、制度がある場合は記載が必要とされています。労働条件通知書に、これらの記載があれば、先ほどの5項目と合わせて、支給時期や金額等のチェックをおすすめします(上記「賃金」の記載例参照)。
なお、パート・アルバイトや有期労働契約の方の場合は、「昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無」の書面等での明示義務が規定されているため、必ず載っています。
さらに、「パート等・有期労働契約の方向けの相談窓口」も、同じく書面等で明示することになっています。
出典:厚生労働省「労働条件通知書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156118.pdf
出典:厚生労働省「パートタイム・有期労働法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/content/001116249.pdf
出典:厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001298244.pdf
出典:厚生労働省「安心して働くための「無期転換ルール」とは」
https://muki.mhlw.go.jp/policy/leaflet.pdf
出典:福井労働局「労働条件通知書記載例」
https://jsite.mhlw.go.jp/fukuiroudoukyoku/content/contents/001727228.pdf
出典:沖縄労働局「労働条件通知書」
出典:厚生労働省「「1箇月単位の変形労働時間制」導入の手引き」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/ikkagetutani.pdf
出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf
労働条件の変更をしたいとき
労働条件通知書の内容を、一部変更してもらいたい。この場合、変更は可能なのでしょうか?
内定承諾前ならば、労働条件の変更希望は比較的伝えやすいでしょう。交渉の結果、お互いに合意が得られなければ、内定辞退という選択もできます。
入社後の変更申し出はハイリスク
対して入社後は、基本的に自己都合での労働条件の変更は認められないことが多いです。
ただ、どうしてもという場合は、上司や人事担当の方などに相談してみるという手はあります。
ただし、会社に悪い印象を与えるというリスクはあります。そのため、できるだけ慎重に動くようにしましょう。
求人票や面接での説明と異なる場合は訂正の交渉を
一方、労働条件通知書の内容が求人票や面接での説明と異なる場合は、記載ミスなどの可能性もありますので、遠慮せずに会社に伝えましょう。
しかし、
・賃金が求人票より低い
・休日数がかなり少ない
・業務内容が違う
などは、求人票が虚偽の可能性があり、会社は職業安定法違反となる可能性があります(職業安定法第65条)。
このようなケースでは、会社に速やかに訂正依頼をしましょう。依頼したにもかかわらず、会社が訂正に応じないようなら、退職を考えてもいいかもしれません。
なお、ハローワークの求人票と労働条件通知書の内容が相違していた場合などは、直接ハローワークに相談するという手もあります。
【専用窓口】
「ハローワーク求人ホットライン」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/member/hotline.html
さらに、労働条件通知書と実際の労働条件が違った場合は、即日で会社を辞めることができます。
就職のために転居していた場合は、一定の条件を満たせば、地元に帰る旅費を会社に請求できる権利も保障されています(労働基準法第15条)。
思い当たる部分のある方は、労働基準監督署に相談するのもひとつです。
出典:e-Gov法令検索「職業安定法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141#Mp-Ch_5
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-Ch_2-At_15
労働条件通知書がもらえない・・・そんなときは?
まずは、入社書類の中に紛れていないかなど、再度確認してみましょう。先に述べたように、書類の名前が「雇用契約書」でも、「労働条件通知書」と兼ねているケースもあるからです。
それでもない場合は、会社に伝え、発行してもらいましょう。
「労働条件通知書はない」は違法
発行を希望したにも関わらず、「うちの会社には労働条件通知書はない」と言われたときは、入社や契約更新を考え直したほうがいいかもしれません。
労働条件通知書の交付義務は、労働基準法第15条に規定されており、このような回答をする会社は、故意に違法行為をしている可能性があるからです。
せっかく入社した会社なので残念な気もしますが、ここは一度立ち止まってみましょう。
まとめ
労働条件通知書とは、採用時や契約更新時などに会社から交付される文書で、賃金や休日などの労働条件を明示するものです。いずれも大切な情報ですが、その中でも、「契約期間」「就業の場所・業務の内容」「始業終業時刻・休憩時間・残業の有無・休日休暇」「賃金」「退職に関する事項」の5項目は、とくに確認が必要です。
また、労働条件通知書を交付しない会社は、法律に違反している可能性が高く、入社や契約更新を踏み止まるほうが良いこともあります。
労働条件の問題に気づかず、入社や契約更新を後悔しないためにも、労働条件通知書をもらったら、すぐに確認するようにしましょう。
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